【尖閣「宝の海」~海人たちの願い(下)】
中国公船に追い回される海人 対抗策…商標登録でブランド価値高め
2013.12.24 15:29 (1/4ページ)[中国]
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/131224/waf13122415400018-n1.htm
おおらかな時代もあった
紺碧(こんぺき)の海に浮かぶ大きな白い円。低く鈍い爆発音が尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の海域に響きわたる。尖閣の海で漁をしてきた石垣島の元漁師、上原吉広さん(82)は、半世紀前の光景をよく思い出す。
「台湾漁船はダイナマイトを使って漁をしていた。あちこちに白い円形の模様が浮かんでいたよ」
ダイナマイトが爆発する衝撃波で水面に上がってきた魚を一挙に回収するという、おおらかな時代の、原始的な漁法だった。
尖閣最大の島、魚釣島。アホウドリが多く生息し、台湾の漁師に日本の漁具を分けてあげると、代わりにアホウドリの卵をもらうこともあった。「本当に『宝の海』だった。体が元気だったらまた行きたいよ」
尖閣諸島の地籍は沖縄県石垣市登野城(とのしろ)。石垣島の登野城漁港は、名前が示すように昔から尖閣諸島と縁が深かった。漁港の漁師小屋で沖縄の伝統的な漁船「サバニ」を作っていた元漁師の狩俣武次さん(55)が振り返る。「昔はサバニに4、5人が乗って、海図を広げて、尖閣まで向かったさ」
30年以上前、漁に使ったサバニはわずか1・5トン。アカマチ(ハマダイ)、アカジン(スジアラ)など高級魚が次々と取れ、甲板は魚で埋まったという。
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おおらかな時代が暗転する兆しが見え始めたのは昭和43年。尖閣周辺の海 底に石油や天然ガスなどの地下資源が眠っている可能性が指摘されたのだ。中国や台湾は46年から尖閣の領有権を主張した。そして昨年9月の尖閣国有化以 降、中国公船が頻繁に現れ、領海侵犯を繰り返している。
資源埋蔵の可能性で一変
尖閣の海で漁をしてきた上原さんの次男、吉高さん(54)は嘆く。「尖閣は自分たちの海だが、漁で行こうとはもう思わない」
一方、マグロはえ縄漁船の漁師、下地宏政さん(44)は怒りの矛先を、今年4月に締結された尖閣周辺海域での日台漁業取り決めに向ける。「漁師の意見も聞かず、台湾に譲歩したのが許せない。腹が立つ」
日本としては中台連携にくさびを打ち込んだ形だが、日本の排他的経済水域(EEZ)内で台湾漁船の操業が可能になった。マグロやカツオが豊富な尖閣沖合で最近、台湾漁船の姿ばかりが目立つようになっている。
日本漁船の仕掛けた網が台湾漁船によって切られるケースもあり、下地さんは「縄と仕掛けを合わせれば300万円。台湾の船は数も多く、日本側が折れるしかない」とため息をつく。
サバニを作っている狩俣さんも、いまだに許せないことがある。平成22年9月の中国漁船衝突事件だ。
違法操業をしていた中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突。海保は中国人船長を公務執行妨害容疑で逮捕したが、那覇地検は処分保留で船長を釈放、起訴猶予処分とした。
法律があってないようなもの
「法律があってないようなもの。尖閣でもう漁はできないとあきらめた」。狩俣さんは怒りを隠せない。
漁師の砂川忠賜(ただし)さん(38)は今年7月、尖閣周辺の領海内で中国公船に追いかけ回された。
「何をしてくるか分からないから怖い。海保の巡視船がガードしているのでまだ安心できたが、もう自分たちだけでは行けない」
領海に自由に行けない理不尽な状況が続く。
だが、海人たちも手をこまねいているわけではない。尖閣沖で取れた魚を商標登録し、「尖閣ブランド」として全国に売り出そうという試みも中国への 対抗策の一つだ。石垣市の中山義隆市長(46)は「尖閣は日本の大きな財産。ブランド価値が高まれば収入も増え、出漁機会が増える。実質的に実効支配を強 めることになる」と狙いを語る。
「尖閣ブランド」で全国に売り出す
石垣市は地元の八重山漁業協同組合に商標登録の出願費用30万円を助成。「尖閣カツオ」など4種類の商標登録を出願し、昨年8月には「尖閣マグロ」の商標登録にこぎつけた。最高級ブランド「大間まぐろ」のように、東京・築地の市場に出回る日も夢ではない。
一方、八重山漁協の上原亀一(かめいち)組合長(51)は「純然たる漁業で実効支配をする。そのためにも、尖閣までの燃料費を助成してほしい」と訴える。
海人たちは、尖閣諸島購入と活用のため東京都に集まった寄付金に期待する。計約10万3600件、約14億8520万円。これだけ多くの国民が、「何とか尖閣を守りたい」との思いを込めて、浄財を寄せた。
海人の願いは一つだ。
「一日も早く『宝の海』を返してほしい」
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連載は大竹直樹が担当しました。