現状では米国と中国の間にはさまざまな摩擦がある。中国の食肉大手、双匯国際は5月、米豚肉加工最大手のスミスフィールド・フーズを47億ドル (約4700億円)で買収することを提案したが、米国内から「知的所有権や食肉の安全性を維持できるのか」との反発があがり、買収交渉は難航している。
また中国は経済成長の結果、エネルギー不足が深刻化しており、シェールガスの増産で価格低下が見込まれる米国産の液化天然ガス(LNG)の輸入を進めたい 考えだ。しかし米国は法律で、中国を含む自由貿易協定(FTA)を締結していない国々への輸出には米当局による承認が必要と定めている。このため中国への 輸入は実現していない。
「重大な突破口」
今回の会合 で両国は、投資協定の協議を加速させることで合意した。中国側には投資協定が実現すれば、双匯国際が提案しているような買収交渉をスムーズに進められると の期待がある。逆に米国では投資協定が実現すれば、外国企業からの投資が制限されている中国国内に、投資がしやすくなるとの希望が広がる。投資協定の対象 は全ての産業分野が含まれるといい、ルー財務長官は「重大な突破口になる」と評価する。
さらに合意文書には米国から中国へのLNG輸出に関連して、「米国は中国に必要な法律上のプロセスについて情報を与えることを約束する」との文言 が盛り込まれた。汪副首相は共同会見で、「米国は中国へのLNG輸出をサポートしてくれる」と期待感を示す。一方で合意文書には「中国は中国国内でのガス 開発に対する外国企業の参加を歓迎する」との文言も盛り込まれ、米国のエネルギー関連企業にビジネスチャンスをもたらす配慮もなされている。
折り合えぬ人権問題
ただし今回の会合では、人権の尊重や航行の自由といった国際社会のルールの位置づけをめぐっては、両国が決して折り合えない関係にあることも明るみに出た。
「人権の尊重は米国のDNAの一部だ」。ジョン・ケリー米国務長官(69)は10日の会合で中国側に人権問題への対応を強く求めた。米国では中国当局が民 主活動家を拘束するなどして人権を抑圧していることへの批判が大きく、人権問題の解決なしに本当の協力関係は築けないとの考えを示したかたちだ。
ジョー・バイデン米副大統領(70)も10日の開会セッションで「中国は国際的に認められた人権の概念を尊重すれば、もっと強く、安定した、革新的な国に なる」と強調した。米国が南シナ海や東シナ海での航行の自由の確保を訴えるのも、中国に国際社会のルールを守らせることにこだわるからだ。
しかし中国側の発言からは国際社会のルールに否定的な姿勢がうかがえる。汪副首相はスピーチで「中国の体制や国益を損なうような考えは決して受け 入れられない」と明言した。中国では言論の自由や航行の自由を認めれば国内体制の不安定化や国益を失うことにつながるとの警戒感もあり、米国の主張に応じ ることは難しいのが現実だ。
両国は協調に向けた一歩を踏み出したものの、その先行きが見通せているわけではない。(ワシントン支局 小雲規生)